読書録『人口減少社会のデザイン』

noteに載せた記事より 

note.com

人口減少社会のデザイン

人口減少社会のデザイン

 

 以前に買った本だが、忙しかったり、他の本を読んだりで後回しになっていた(積読はゆうに50冊を超えている…)。

この著者(広井良典さん)の本はすでにいくつか読んでいて、特に『生命の政治学』が面白かった記憶がある。

今回の本は、人口減少というテーマのもと、今までの本で主張された内容を読みやすくコンパクトに整理したという印象を受けた。

以下いくつか重要だと思った部分を記録しておく。

メモ① 少子化について

少子化というと、直感的には結婚したカップルの子どもの数が減っていると考えがちであるが、実はそうではない。……少子化の原因となっているのは、むしろ結婚そのものに関する状況の変化、すなわち未婚化と晩婚化なのである。(58頁)

そして、著者によれば少子化の原因は「女性の社会進出」ではない。むしろOECD加盟国における女性の就業率と出生率は正の相関がある。つまり、社会のあり方次第で少子化は解決できるのであり、少子化の責任を女性に押し付けるのはお門違いということになる。

メモ② 「地域密着人口」の増加

「地域密着人口」とは、著者によると子どもと高齢者のことを指す。現役世代は都心部への通勤を考えればわかるように、地域とのかかわりが薄い。そうした現役世代のボリュームが減るため、これからは「地域密着人口」に着目する必要があるという。

高度成長期を中心とする戦後の人口増加の時代においては、地域密着人口の割合は確実に減っていた。言い換えれば、それは「地域」というものの存在感がどんどん薄くなっていった時代だったわけである。……いずれにしても、これからの人口減少時代は、”地域で過ごす時間の多い”層が大きく増えていくのであり、地域というもののもつ意味が、いわば人口構造上からも着実に大きくなっていく。(95頁)

メモ③ 「資本主義」と「市場経済」の違い

一見似ていて、ほとんど同義に使われることもある言葉だが、筆者はブローデルの枠組みを紹介し、両者を区別している。

市場経済ないし「マーケット」というのは、例えていえばかつての築地市場の魚市場の”せり”のように、ある意味で非常に透明で公平な競争である。それに対して資本主義は、むしろ力とか独占とか、”富める者がますます富める”といった論理が支配するような性格のものである。(162頁)

そのうえで、筆者自身は資本主義を「市場経済プラス限りない拡大・成長への志向」という点を押さえておく必要があると述べる。成長路線については様々な議論があるが、地球に限界が生じつつあることそれ自体は誰もが念頭に置く必要があるだろう。

メモ④ 日本が低負担・高福祉を実現できていた理由

筆者は「インフォーマルな社会保障」あるいは”見えない社会保障”と呼ぶべきセーフティネットが存在していたと述べる。

「カイシャ」と「家族」、つまり終身雇用を基調とし、加えて(給料の中に扶養手当や住宅手当といったものが含まれるなど)社員とその家族の生活を生涯にわたって保護するような「カイシャ」と、介護や子育て等をしっかりと担う、良くも悪くも標準的な「家族」という存在によって支えられていた。(184-185頁)

そしてそれらが機能しなくなった結果、経済格差が徐々に拡大しているという。実際、所得格差を表す指標ジニ係数で見ると、かつて日本は北欧に次ぐ大陸ヨーロッパと同じあたりに位置していたが、徐々にアメリカやイギリスに近づいているとのことである。

全体を通して

人口減少からコミュニティのあり方、資本主義の分析、社会保障や医療、そして死生観のあり方まで幅広く論じられている。こうした分野に興味がある人はぜひ読んでみてほしい。

ちなみに、最近NHKで放送されている「100分de名著」の『資本論』の内容にも通じるものがあると思う。

番組で解説役を担当している斎藤幸平さんの著書『人新世の「資本論」』(未購入)も今回の本の内容とつながりそうな気がするので、また積読が増えそうだ…。

 

人新世の「資本論」 (集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書)

  • 作者:斎藤 幸平
  • 発売日: 2020/09/17
  • メディア: 新書
 

 

 

持続可能な医療 (ちくま新書)

持続可能な医療 (ちくま新書)